キリストの牢獄

10月4日

アンジェロ 春山 勝美 神父
Fr.Angelo Haruyama Katsumi, OFM
haruyama@netvision.net.il

326年、ローマ エルサレムには、私の知る限り、三つの「キリストの牢獄」があります。もっともよく知られているのは鶏鳴教会にあるものです。当地の日本人ガイドは、カトリックの、プロテスタントの巡礼団、それに、観光団をそこに案内します。シオンの丘の東の斜面にあり、最後の晩餐の部屋の数百メートル下です。イスラエル時代になっての発掘調査で、ローマ時代の豪邸跡と分かり、カヤファ邸宅と見られるようになりました。

ゲッセマネで捕らえられたキリストは、ここで、まず、宗教裁判を受け、死刑の宣告を受けました。そして、ピラトのもとに引き立てられるのですが、その間、閉じ込められたところで、上部にしか出口のない独房です。私にはぶどう酒の貯蔵庫に見えるのですが、救い主の受難を黙想するにはふさわしい場所でもあります。

第二の「キリストの牢獄」は日本人の間ではまったく知られていません。「十字架の道行」で第一留、第二留の「鞭打たれた教会」を出、「エッケホモ」の隣、ギリシャオーソドックス修道院にあります。

そして、第三の「キリストの牢獄」はキリスト復活大聖堂内にあります。日本人ガイドからは無視されています。しかし、日本人ばかりでなく、多くの訪問者が興味を持ち、あそこは何ですかと質問されるところです。(写真:牢獄)。コンスタンチヌスMausoleum(陵)の大聖堂平面図に記載があり、モノマコス再建Mausoleum(陵)では東側北端の同じところに、入口の間(Vestibule)を持つ正式の聖堂となりました。現十字軍大聖堂では、入口の間が大聖堂主要部分に取り込まれ、現在のものとなりました。「キリストの牢獄」といつ頃から呼ばれるようになったか定かではありませんが、1724年記載の案内図では「キリストの牢獄」とあり、ギリシャオーソドックスがミサを捧げているとあります。

ヨハネは「イエズスが十字架に付けられた所には園があった。(19.41)」と記述しています。建物としての「牢獄」があるのはおかしいので、処刑前、兵士たちに監視されたところと理解していました。しかし、間もなく、「キリストの牢獄」は単なるチャペルの名称と気付きました。

私たちは、すでに、ヨーロッパ的思惟方法を身につけています。カルヴァリオ −キリストの受難の場所− この様な歴史的環境では「キリストの牢獄」を歴史的な場所と先行的に(a priori)理解してしまいます。しかし、ビザンチン時代には並行的思惟方法が盛んでした。一日を昼と夜。人間を男と女。この様に表現するとにより具体的に理解することが出来ます。

復活したキリストはおん父の右に座し、「そうです。万物の支配者である神、主よ、あなたの裁きは真実で正しい。(黙示録16.7)」と諸天使、聖人たちに賛美され、礼拝されています。(参照:パントクレアトル、)。ナザレの人、マリアの子、イエスは十字架で処刑され、墓に葬られました。しかし、復活したイエスは救い主キリストとして父と聖霊と等しく礼拝されています。巡礼はこの救い主の受難と復活の聖地への旅でした。(参照:9月14日 十字架賞賛の祭日)。

宇宙の創造主、支配者、生きているものと死んだものとの審判者が兵士たちの捕らえられ、大祭司に裁かれ、ローマ総督ピラトから十字架の刑を言い渡され、死んで葬られた聖地へのたびでした。「キリストの牢獄」は人となった神の子イエスの生涯、特に、私たちを救うために忍ばれた受難を思い起こさせる聖堂と理解できます。そして、また、ギリシャ哲学での人間理解、すなわち、イデアが肉体と言う牢獄に閉じ込められた状態を思い起こすと、受肉の秘儀の黙想の場とも考えられます。

西洋文化においては、客観的な真理、歴史的事実、実証による確認が重要な価値を持ちます。東洋文化では、概して、出来事との主体的な関わりが重要になるのではないでしょうか。「キリストが拘束」された場所の特定はそれなりに歴史的な重要な課題です。と同時に、「キリストが拘束」されたことが私たちに何を意味するかを考えることも大事です。

最近、西洋文化の優越性を口走って、ひんしゅくを買った政治家がいましたが、東西の文化を優劣で色分けしてはならず、また、おのれの生きる文化の絶対性をも主張してはなりません。異質の文化の存在を認め、吸収して新しい文化を形成したルセッサンス精神に立ち返ること無しに、平和の実現はないと思います。

おしらせ
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休暇帰国をもらいました。10月15日、イスラエルを発ち帰国します。
12月15日、日本を発ち、エルサレムに戻ります。その間、二ヶ月、エルサレム通信を休ませて下さい。

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